読み直して見つけた

小説に描かれた技術
 

読み直して見つけた 小説にみる技術

 藤木 勝 著



 B6判 260ページ 並製
 定価 1600円+税

ISBN4-921102-55-5 C3037

[発行所:NSK出版]


目  次

第1章 灯り
 1. 井上靖の見たガス灯
 2. 踊り子ナナを照らした舞台照明
 3.『レ・ミゼラブル』に描かれる灯り

第2章 綿
 1. 綿の栽培から糸紡ぎへ
 2. アメリカ南部の綿花栽培と農民

第3章 紡績
 1. 佐多稲子『機械の中の青春』から
 2. 三島由紀夫『絹と明察』と佐多稲子『機械の中の青春』から
 3. 横光利一『上海』 の紡績工場

第4章 鉄鋼
 1. 三浦綾子『夕あり朝あり』から
 2. 堀内敬三・井上武士編『日本唱歌集』から
 3. 小説に描かれた鍛冶屋の姿
 4. エミール・ゾラ『居酒屋』に描かれた鍛造
 5. 水上勉『父と子』から
 6. 早船ちよ『キューポラのある街2-未成年-』から
 7. 永井萌二『ささぶね船長』から
 8. 水上勉『椎の木の暦』から
 9. 有吉佐和子『針女』から
 10. 山崎豊子『大地の子4』から

第5章 自転車
 1. 『一粒の麦もし死なずば』とジイド
 2. 夏目漱石の英国留学中のできごと
 3. 庶民には手の届かぬ自転車を乗り回した志賀直哉
 4. 萩原朔太郎『日本への回帰』から
 5. 自転車に乗る女性を見る目
 6. 資料

第6章 動力
 1. 『赤と黒』に描かれた水車による鍛造と製材
 2. 『風車小屋だより』と蒸気機関
 3. 熊谷達也『山背郷』から
 4. 『新十津川物語』と足踏み式脱穀機 
 5. 『テス』に描かれた蒸気脱穀機と労働
 6 『居酒屋』の洗濯場風景と蒸気機関による脱水機 

付 録 技術に目を向けて読んでおきたい その他の推薦本
 7. 力強さと繊細さを兼ね備えた蒸気機関


技術教育のルネサンスを
  ―小説や詩も技術教育の貴重な資料

 本書は、小説の紹介から始まって描かれている技術に焦点をあてているのが特徴です。本の読み方は読者の自由とはいうものの、こんな読み方で良いのかと疑問を持たれる方、逆にこんな読み方もできるのかと気づかれた方もあるかもしれません。本書は文学教育と技術教育の隙間を埋める本といえるかもしれません。実際、小説の紹介をした時「国語の授業みたいだね」と言われたこともあります。なぜこのような本になったのか。それは「技術・家庭科」(技術科)の教員になってから40年以上技術教育に携わってきたことと関わります。端的にいえば「おもしろい授業をしたい」「技術って面白いな」と言わせたいことに尽きます。
 「明日、どうしようか」から、授業の組み立てと資料探しが始まります。新卒間もない頃は毎日これで悩みます。仲間を求めて「産業教育研究連盟」に加入し、ある時期は雑誌「技術教室」(農文協発行)の編集にも携わりました。予定原稿が入らないとわかると埋め草(穴埋めの原稿)を探すか、自分で書かなければなりません。日々の授業と編集のことが頭から離れなくなりますから、研究会仲間や職場の同僚にも尋ねることがあります。雑談の中にヒントが埋もれていることもあります。これはと気づいたことはメモ書きを残しておきます。本書の根っこには、このような苦し紛れのメモが存在しています。
 あるとき研究会仲間の一人が「僕は、商学部出身で金属のことは苦手、授業では村の鍛冶屋を歌うんだ」というのです。これは衝撃的でした。4 番までの難しい「村の鍛冶屋」が元詩であることを知ったのは、このときの一言があったからです。さっそく真似をしました。生徒は文化祭で鍛冶屋風景を入れた演劇をしました。「先生、炉の火はどうしたらいい?」と、もちろんそのための道具材料は貸し出しました。
 市立図書館に行ったとき、ある新書判に紹介されていた本のことをふと思いだし、司書のかたに「書名も著者もわからないのですが、鉋削りのことで、ひゅうひゅう音をたててリボンのように削れてくるというようなことが書かれていた本、わかりますか。外国の文学でしたが」と尋ねたのです。たった2 行の内容を基に一か月ほどして、「多分この本でしょう」と都立図書館から本を取り寄せてくれたのです。本が見つかってこのときほど嬉しかったことはありません。それが医者であり詩人でもあるカロッサの自伝的作品『幼いころ』でした。これは学校で鉋削りをする時の補助教材になりました。
 授業には、活かすことはできなかったのですが、自転車のことを調べていたときに『自転車日記』を漱石が書いていることを知りました。漱石はロンドン留学中に自転車練習を始めたのですが、そのきっかけや心身の状態が書かれています。それは『夏 目狂セリ』( 二日間の講演内容を整理したもの) とつながりました。まさに資料が資料を呼ぶのです。新宿西口広場で行われていた古書の即売会で『漱石の思い出』夏目鏡子/ 松岡譲筆録を見つけたのも偶然でした。鉛筆で○や×がありましたから研究資 料に使われたものと思われます。
 ところで、1958 年に「職業・家庭科」が「技術・家庭科」に変わった時、授業時数は週3 時間あって男女別でしたが、それぞれ3年間で315 時間学ぶことができました。幸いにも私は貧弱な施設設備の中でしたが、この黄金期に学ぶことができました。それが今や男女共通に同一内容を学習できるようになったとはいえ3年間でわずかに175 時間(技術分野、家庭分野に二分するとそれぞれ87.5 時間)です。学習時間は三分の一以下になっているのです。本書には金属や機械のことをたくさん書きましたが、いまの教育課程ではそれらを扱うことはほとんど不可能です。科学・技術教育の振興をめざして設けられた「技術・家庭科」は痩せ細り完全に吹き飛んでしまっているのです。
 どこかで何とかしなければならない、こんな夢と希望をもって蓄えてきたメモ類に手を加え整理したものが本書となりました。 (「あとがきに代えて」より)



◆著者プロフィール
 藤木 勝 (ふじき まさる)

〔略歴〕
1948 年 長野県松本市生まれ
1970 年 東京学芸大学卒業 以後、 東京学芸大学附属大泉中 学校技術科教員
2008 年 東京学芸大学大学院教育学研究科入学、 技術教育 専攻
2010 年 同終了
2010 年 4 月〜 東京学芸大学教育学部技術科教育学科非常 勤講師
         他私立中学校・高等学校の非常勤講師
         産業教育研究連盟常任委員 ・技術教育研究会会員
〔主な著書〕

『中学技術の授業』(共著、 民衆社、 1990 年)
『イラスト版修理のコッ 子どもとマスタ ーする 54 の生活技 術』(共著、 合同出版、 1997 年)
『イラスト版子どもの技術 子どもとマスタ ーするものづくり 25 のわざとこつ』(共著、 合同出版、 2005 年)
『文学と技術のかけ橋 藤木勝教育実践集』(自家版、 2007 年)
『綿から糸を作る道具と機械の物語』(藤木勝、 家政教育社、 2013 年)
『技術・家庭科ものづくり大全 その教育理念と授業実践』産 業教育研究連盟[編](共著、 合同出版、 2021 年


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