地域から見た歴史教育

地域から見た歴史教育

〜徴兵の実態と戦争〜


  外池 智 著


B6判 176ページ 並製
定価 1200円+税

ISBN4-921102-04-X C3037

目  次

序章 研究の意義と目的

  第1節 戦争学習における地域からの視点
  第2節 地域からの視点による戦争学習の課題
  第3節 本研究の課題

第1章 戦争準備期における地域社会

  第1節 国防思想の普及と国防同盟会
  第2節 国防同盟会の組織と目的

第2章 地域における徴兵の実態

  第1節 徴兵制度の変遷
  第2節 徴兵検査の展開
  第3節 徴兵検査の結果及び徴兵の実態

第3章 総力戦体制下における地域社会と戦没者

  第1節 日中戦争期
  第2節 太平洋戦争期
  第3節 戦没者について

第4章 出征兵士の軌跡

  第1節 横松敏郎氏の事例
  第2節 鶴見氏,黒川氏の事例
  第3節 川又実氏の事

終章 教材化の試み

  第1節 教材化の視点
  第2節 授業化の試み―戦争体験を題材とした戦争学習―
  第3節 本研究のまとめ

あとがき


「序章 研究の意義と目的」より

第1節 戦争学習における地域からの視点

 20世紀における二度の世界大戦を通じて,世界の人々は平和の大切さや基本的人権と民族同権の尊重という民主主義の理念を身をもって学んだ。それは,国際的には「国連憲章」や「世界人権宣言」に集約されて,第二次世界大戦後の世界の指導的理念となり,国内的には「日本国憲法」や「教育基本法」の平和的民主的諸規定に反映され,平和と民主主義の実現が国民的な歴史的課題となった。そして,平和と民主主義をめざす教育が戦後教育の大原則となった。
 しかし,戦後半世紀以上もの年月を経て,そうした平和を目指す教育は変質を余儀なくされている。すなわち,直接の戦争体験をもつ世代が年ごとに減少していくにつれ,親の語り伝え,さらに祖父母の語り伝えから,教師の教育へと「戦争」の伝達が移行し,学校教育の役割はますます重要になってきたのである。加えて,中国残留孤児,元台湾人兵,元従軍慰安婦に対する賠償,そして教育関係では歴史教科書問題,旧文部大臣を始めとする中央行政官の「失言」や戦争史観に関する問題など,日中戦争,太平洋戦争を根源とする問題は現在でも息づき,今日に生きる我々の大きな課題として残されている。戦後半世紀以上もの年月を経て,そうした世代的推移,今日的問題を前に,歴史教育の果たす役割は今後ますます重要である。
 さて戦後の歴史教育において,特に戦争を題材とする平和を目指した教育は,当初からその教材を地域にもとめ,地域に学ぶ教育として実践されてきた。まず,1970年代に全国的に組織化され,その基盤をつくったのは,広島・長崎における平和教育の実践であった 。それは,「被爆教師の会」を中心にした長年の運動と相まって「原爆教育」として主張されたところに,広島・長崎という地域独自の訴えがこめられていた。
 また,その他の地域で盛んに取り上げられたのは,沖縄と東京であった。周知の通り沖縄は太平洋戦争で戦場となった日本で唯一の地であり,戦後は一貫してアメリカのアジア戦略の要石として「基地沖縄」を強要されてきた地域である。首都東京は,「東京空襲を記録する会」の『東京大空襲戦災誌』の出版運動などに代表される東京大空襲とその体験の教材化として積極的に推進されてきた地域である。
 その後の戦争学習 も,これら代表的な4つの地域と軌を一にして,いずれも地域の戦争・戦争体験を掘り起こし,調査,記録する運動とその教材化を軸にして進められてきた。つまり,歴史教育において,特に日中戦争,太平洋戦争を中心とする先の大戦を題材とした学習は,一般的な戦争史や平和を目指した学習として進められるというよりも,実践面ではむしろ積極的にその教材を地域に求め,地域に学ぶ教育として展開されてきたのである。すなわち戦後の戦争学習では,当初から地域からの視点を重視し,そこから展開されてきた。平和や戦争に対する観念的,一般的な知識の獲得に終わるのではなく,身近な史実を直接題材として実践されてきたのである。


著者プロフィール

外池 智

(とのいけ さとし)
 1963年栃木県生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒業。
同大学院修士課程教育研究科修了後栃木県立矢板東高校教諭を経て,筑波大学大学院博士課程教育学研究科修了。
教育学博士
現在,筑波大学教育学系助手。東京成徳大学・茨城大学講師。
専門は,社会科教育学。


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