「巻頭言」より
本書は、科学技術融合振興財団(FOST)の2020年度調査研究助成による研究テーマ「オンライン授業におけるゲーミング・シミュレーションの活用− 参加者の臨場感と切実性を醸成する議論型GSの開発と実践− 」(代表・井門正美)の研究成果に基づき刊行した。
本研究の主要な特色(独創性)は、筆者らの長年に亘る研究実績を根底に据えて、19 99年
に井門が博士論文(筑波大学)で提唱したオリジナルな教授学習理論「役割体験学習論」に
基づきG Sを開発・実践していること(第1 の特色)、次に、GSを@ 教室対面型、A オンライ
ン学習型、B 対面・W e b混合型の3 つに類型化し開発・実践していること(第2 の特色)、
さらに各類型について多数のG S開発を行い、多様な年齢層に対して実践してきたこと(第
3 の特色)の3 点にまとめられる。3 点目については、教室対面型( G S「学校」、G S「市町
村合併」、G S「道州制」等)、オンライン学習型(「ネット模擬裁判員裁判」、「美味しん
ぼ問題学習サイト」、「命の教育・Y e s / N oカード学習サイト」)、対面・W E B混合型( G S「裁
判員裁判」、G S「屠畜体験学習」、G S「美味しんぼ問題」)等が主なG Sとして挙げられる。
特に、今回の研究テーマ「オンライン授業におけるゲーミング・シミュレーションの活用
− 参加者の臨場感・切実性を醸成する議論型G Sの開発と実践− 」は、B の対面・W E B混合
型(今日的には「ハイブリッド型」)としてのGS開発とその実践になる。
本研究では、コロナ禍で急浮上したかのように思われがちな「オンライン型授業」や「ハ
イブリッド型授業」については、筆者の役割体験学習論では、すでに、博論構想段階から
想定しており、秋田大学(19 99〜 2 01 5年)並びに北海道教育大学( 20 15〜 2 02 1年)で、対面型
授業と併せて実践してきたものであることを指摘した。これらの授業スタイルについては、
教育目的、教育効果、教育環境や教育的制約条件等を踏まえながら、臨機応変に選択し、
その上で、議論型G Sを採用することで、学習者の臨場感や切実性を醸成できることを、本
研究で実証している。
よって、本研究ではこれまで筆者らが開発・実践し、実践に基づく更新を図ってきた議
論型GSを中心に、主に「模擬裁判員裁判」「屠畜体験学習」「美味しんぼ問題」「地方創生」
「ソーシャルアンガーマネジメントゲーム」「命の教育・Y e s / N oカード学習」を取り上げ
た。これらを用いた実践を紹介し、学習者の「振り返り」「授業評価」等の記述から、対
面に限らず、オンラインやハイブリッドの授業でも臨場感や切実性を醸し出す授業実践が
可能であることを示した。筆者らの提示した議論型G Sの実践により、コロナ禍でオンライ
ンやハイブリッドの授業を不充分な学習環境でせざるを得ず、否定的な態度や見解を持っ
た学校や教師に対して、議論型GSという学習方法が直接対面ではない授業でも、充分に臨
場感や切実性を醸成することができるという証を提示できたと思う。
研究代表 井門正美
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