変化する社会と生涯学習の課題


変化する社会と生涯学習の課題

 馬居政幸  著


  

 A5判 232ページ 並製
 定価 2100円+税

ISBN978-4-921102-41-8 C3037


 

はじめに

 本書は、当初、八洲学園大学で開講する社会教育主事の資格を取得するための科目「変化する社会と生涯学習の課題」の講義テキストとして企画しました。大学院時代からの友人の浅井経子先生に頼まれて、昨年(2016)春から担当することになった科目です。しかし、テキストづくりを進める過程で、社会教育主事資格取得のための一科目の範囲を超えて、「社会教育と学校教育」、「家族と地域の教育力」、「女性の就労と子育て」、「子どもの文化と情報環境」、「少子高齢化と市民協働」など、生涯学習のあり方をより広い視野から(再定義をも視野において)問うことに役立つ書となることを願って、構成と内容を新たにすることにしました。理由は二つです。
 その一つは、八洲学園大学受講生から届いた課題レポートの内容でした。
 初年度の講義のために準備した教材は、静岡大学在職時に執筆した拙稿から、科目名に関係すると判断する論考を選び、PDF版にして送付可能にしたものでした。
 静岡大学での私の担当は教職専門の社会科教育法と教科専門の社会学でした。しかし幸いにも赴任直後の1980年代に、静岡県と県内市町村の教育委員会が実施する生涯学習推進大綱作成の活動に、研究者として参加する機会を得ました。生涯学習が広く地域の人達に共有される過程を直接経験することができたわけです。
 さらに、平成元(1989)年版学習指導要領で新設された生活科の誕生期に、文部省の協力委員として小学校の先生方と地域を学びの場に変える授業創りに参加できました。新学習指導要領が提起した「開かれた学校」について、学校の中では社会科と生活科を中心に、学校の外では地域に根差した生涯学習の実践化のために、各種教育雑誌に発言する機会を得ました。このような学校の内と外を結ぶ生涯学習推進の経験に基づく論考をオリジナルな教材として提出し、八洲学園大学の講義を始めました。
 八洲学園大学は通信制です。課題レポートの講評と科目認定試験の評価が講師の役割です。受講申請者は32名でしたが実際に届いたレポート数は29でした。この程度の人数のレポートであれば、と気軽に手に取りました。
 ところが、読み始めて戸惑いました。次いで反省しました。多種多様な年齢、経歴、動機のもとで、全国各地の情報とともに、一人ひとりが背負う人生の重さが行間からあふれ出る文章ばかりだったからです。29のレポートが問いかける内容が全て異なり、評価する言葉を見出すことができなくて悩みました。しかし、それならば私自身が受講者に学ぶ姿を見せるしかないと決断し、一人ひとりのレポートに即して私が学んだ内容を文字にして伝えることにしました。そして、結論部分に2回目の課題を提案し、その理由を語る過程に私の評価を書き込みました。
 このような試行錯誤の講義になりましたが、受講者の皆さんに助けられて、8月末に科目認定の評価の作業を終える日を迎えることができました。その時に改めて実感したのが、受講者一人一人が抱く多種多様な問いに応えることができる、より広い領域の課題を“生涯学習の対象”に取り込むテキストの必要性でした。私が用意した拙稿を並べるだけではカバーできませんでした。
 ではどのような構成と内容にすればよいのか。その答えを得るには、もう一つの機会が必要でした。それが本書の構成と内容を新たにする二つ目の理由になりました。それは科目認定を終えた翌月の昨年9月に開始した無藤隆先生との本づくりの過程です。翌年(2017)に新学習指導要領が告示されることを踏まえ、取りまとめの中心の役を担われていた無藤先生が改訂の趣旨を語る本です。
 「社会に開かれた教育課程」「カリキュラム・マネージメント」「主体的・対話的・深い学び」とキーワードを次々と取り上げて、その特性を論旨明快に語る無藤先生の言葉の記録を整理しながら、89年改訂時の「開かれた学校」に関する論議と実践との連続性を感じました。と同時に、それは教育理念のレベルに止まることも知りました。無藤先生が今回の改訂の趣旨の中で、最も熱く語ったのは、旧来の“教科の学力論”を超えて、予測できない社会を生き抜く子ども一人ひとりの“資質・能力の重視”へと導く“知識の構造論”でした。私は新学習指導要領の広さと深さを理解し、90年代の“新しい学力観”から、2000年代の“確かな学力”を経て、“資質・能力の育成”へと積み重ねた成果を、新学習指導要領の中に読み込むことができました。
 しかし、このことを学校現場の先生方が実践者としてどこまで理解できるか不安になりました。保護者の皆さんはどうでしょうか。学校の外の社会教育施設で地域の人達とともに活躍する主事の皆さんが関心を示してくれるでしょうか。
 この問題意識(危機感)から、八洲学園大学受講生から学んだ新テキスト構想に、新指導要領の理解と実践化に結ぶ構成を重ねることで、“予測困難な社会の変化”に臨機応変に応じる“生涯学習再定義の道を拓く書”に近づけるのでは、との希望を抱きました。その可能性を求めて受講生の皆さんに提供した代替テキスト以外も含めて拙稿を読み直し、語るべきことが次の三つの時期に分かれることに気付きました。
 @80年代臨教審の論議を経て示された「生涯学習体系への移行」とその実践化とみなせる89年版学習指導要領の可能性を論じた1990年をはさむ時期の論。
 Aその後の学力低下批判を意識しながら既存知識では解けない社会事象の変化に対峙するために、新学力観を超える論を模索した2000年をはさむ時期の論。
 B学力調査の功罪への問いを隠れた動機に、人口減少時代における生きる場の再構築の担い手となる学校・家庭・地域・職場(人口拡大再生産のための社会システム再編成)の可能性を問う2010年を前後する時期からの論。
 これが本書の構成の原型になります。さらに、新学習指導要領の可能性を評価し、社会教育との協働(チーム学校)を視野において、実践化への道を拓くための手順を次の三種に整理して、本書の内容にする論理と実践を絞り込みました。
@)「生涯学習体系への移行」にまで遡って、その価値と有用性を問い直し、
A)学力重視の世論のなかで、一人一人の学びの質の高まりを、他者との関係を豊かにする言葉の交換作業と重ねることで実現する論理とその実践化に挑み、
B)人口減少時代に突入することにより、福祉系列の施策と施設の拡大が求められる中で、生涯学習の新たな可能性を引き出す再定義を試みる論を志向すること。
この三種が次に示す本書の各章の名称に込めたコンセプトです。
第1章 変化する社会が求めた生涯にわたる教育と学習
第2章 変化する地域における学校と子どもたちの課題
第3章 変化する家族と子育ての課題
第4章 沖縄では・・・高い出生率の背景に何が?
第5章 変化流動する消費社会に育つ子どものリアリティ
第6章 変化する社会に対峙する学校と教師の課題
第7章 生涯学習社会における社会教育担当者の役割と課題
第8章 生涯学習推進のための事業企画と調査研究の方法と展望
@)が1章と2章、A)が3章、4章、5章、6章、B)が7章と8章です。
各章を構成する内容は目次で確認してください。
その際に、本書が通信教育のためのテキストであることを活かして、本書を学びのツールにしていただくために工夫した次の点についても確認してください。
➊ 各章で学んでいただきたい点について、章の扉を設けて言葉を添えました。 ➋ 同様の意を込めて、章の扉に中項目単位に小項目を付した目次を示しました。 ❸ 各章に配した拙稿の初出文献と発行年度を開始ページ表題右上に示しました。 執筆時の社会的歴史的背景を問う手がかりしてください。 ➍ 社会教育と学校教育を社会の変化との関わりにおいて同列におき、この二つを包括する概念として生涯学習を位置づけて、学校、家族、地域、女性、子育て、就労、子ども、マンガ、アニメ、まちづくりの論と実に関する拙稿を組み入れました。 ❺ 教育と学習の論に加えて、事業企画や社会調査の方法も含めました





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