改訂 道徳教育とその指導法

  基礎からわかる道徳教育

 

 山形大学

  吉田 誠 著


A5判 208ページ 並製
定価 1580円+税

ISBN4-921102-21-0 C3037
 (発行人 新藤智)

目  次

はしがき

第1章 道徳教育はなぜ必要か

  (1)道徳教育に対する誤解
  (2)外的規範と内的規範の関係
  (3)我が国の社会と道徳教育の現状

第2章 道道徳性について考えよう

  (1)道徳性とは何か?
  (2)道徳性と人格
  (3)道徳的習慣とは何か

第3章 道徳を教えることについて

  (1)道徳は教えられるか
  (2)道徳を教えるとはどういうことか

第4章 我が国の道徳教育はどのようにして今の形になったのか(1)

  (1)我が国の道徳教育の歴史を学ぶ必要性と歴史を見る視点について
  (2)明治時代
  (3)大正時代
  (4)昭和時代初期

第5章 我が国の道徳教育はどのようにして今の形になったのか(2)

  (1)道徳教育の空白期
  (2)レッドパージと特設道徳
  (3)道徳教育と道徳学習の揺れ動き

第6章 道徳授業の基本形:読み物資料を用いた授業

  (1)よい読み物資料の条件
  (2)読み物資料の類型
  (3)読み物資料を用いた授業の課題
  (4)読み物資料を用いた授業の基本構成

第7章 道徳授業の発展形:役割演技や体験活動を取り入れた授業

  (1)役割演技の特徴と課題
  (2)エンカウンターの特徴と課題
  (3)モラルスキルトレーニングの特徴と課題

第8章 道徳授業の発問の構成

  (1)発問の種類
  (2)発問の構成法
  (3)道発問に対する子どもたちの回答方法

第9章 道徳の学習指導案の作り方

  (1)道徳の学習指導案の基本形式
  (2)道徳の学習指導案の作り方
  (3)道徳の学習指導案推敲のためのチェックリスト

第10章 道徳授業を行うにあたって

  (1)教師の基本的な姿勢
  (2)学習指導の工夫
  (3)道徳授業の評価

第11章 学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育

  (1)特別活動との連携
  (2)各教科の学習との連携
  (3)総合的な学習の時間との連携
  (4)家庭や地域社会との連携

第12章 同和教育と人権教育

  (1)人権とは何か
  (2)同和教育から人権教育へ
  (3)人権教育の方法
  (4)道徳教育と人権教育のつながり

第13章 我が国の道徳教育の課題

  (1)道徳授業のマンネリ化
  (2)道徳教育の形式化(知的理解と実践との間の断絶)
  (3)道徳授業における「教える」ことと「学ぶ」ことの分裂

第14章 日本型人格教育の道徳的習慣形成の方法

  (1)米国の人格教育の実践例と課題
  (2)日本型人格教育の道徳的習慣形成の方法
  (3)道徳的習慣形成の実践例

第15章 持続発展教育と道徳教育

  (1)21世紀の社会が取り組むべき課題
  (2)今後必要とされる価値観と道徳性
  (3)持続可能な社会を形成するための道徳教育

〈資料〉

教育勅語/教育基本法/学習指導要領/中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」/道徳の学習指導案の例/人権教育及び人権啓発の推進に関する法律/やさしい言葉で書かれた世界人権宣言/国連持続可能な開発のための教育の10年

はしがき
 本書は、主に小中学校の教員免許を取得しようとする学生を対象に、学校現場で道徳教育を実施するために必要な基礎的な知識をわかりやすく解説するとともに、我が国の道徳教育の現状と課題を示すことでこれからの道徳教育のあり方について考察し、改善のための方策を検討することを目指して作成したものです。
 本書の特徴として以下の四点があげられます。
 第一にできる限り初学者にもわかりやすい説明を心がけました。たとえば、我が国の道徳教育が現在のような形で行われるようになった歴史的経緯を知ることで、望ましい道徳教育のあり方や現状の課題を理解することができますが、そのためには我が国の近現代史の基礎知識が必要になります。高校までの日本史の学習では近現代史が十分に扱われないことがあることから道徳教育の歴史だけではなく、その背景となる近現代史の大まかな流れにも触れることで、理解を深められるように配慮しました。
 第二に我が国の道徳教育に対する誤解を解くことで、教師として学校現場で道徳教育の指導を行う心構えが身につけられるよう配慮しました。我が国の道徳教育は、その歴史的経緯をみるとわかりますが様々な政治思想の対立の中で形成されてきました。そのため、道徳教育のあり方に対しては現在においても一定の政治思想のフィルターを通した視点からの発言が見られます。このような発言が学校現場にも影響を及ぼし、文科省の道徳教育に対する方針と学校現場での道徳教育に対する受けとめ方に食い違いが生じている場合もあります。さらに、文科省の方針とは異なる道徳教育が一部の学校現場で行われ、それが文科省の方針に従って行われているかのように一般の人々に誤解されるといった状況も見られます。そのため、教師を目指す皆さんが、将来教壇に立って自信を持って道徳教育を行うためには、まず我が国の道徳教育に対する様々な誤解を解いた上で、学習を進める必要があります。
 第三に大学の教職課程の授業だけではなく、教育実習での学習指導案の作成や学習指導の際にも参照できる実践的な内容を含めました。一般に大学の教職課程のテキストでは理論的な内容に重点が置かれる傾向があります。その理由の一つに、学校現場で実際に道徳教育を行う際に必要とされる知識や技能をマニュアルのように一般化することが難しい、ということが考えられます。たしかに、教師の指導力を向上させるためには学校現場で実際に児童生徒を指導しながらでなければ学べない生きた知識や技能も必要です。しかし、初心者にとって、道徳教育を行うために必要な最低限の知識や技能についてはある程度マニュアル化されていた方が効率よく指導力を向上させることができます。ですから、教育実習では、まずは本書のマニュアルやチェックリストを活用して学習指導案を作成したり、学習指導を行ってみたりしてみてください。もちろん、マニュアルに頼っているだけでは一定レベル以上に指導力を向上させることはできませんから、マニュアルの中で「こうした方がよい」と思われる部分があれば自分なりに修正し、改善していってください。
 第四に我が国の道徳教育の特徴と課題を明確にした上で、今後の社会で必要とされる道徳性に配慮しながら、これからの道徳教育のあり方についての提言を行いました。我が国の道徳教育が現在のような形式で行われるようになって50年以上が経っています。50年間変わらないということは、方法としてある程度完成されている、と見ることもできますが、その反面、近年の社会の急激な変化に対応できなくなっている部分もあるかもしれません。また、皆さんが教師として指導する子どもたちが社会を支える中核となっていくのは30年くらい先のことになります。ですから、今の社会の要請だけではなく、未来の社会のあり方を予想しながら、これからの道徳教育のあり方を考えていく必要があります。本書の提言はこれからの道徳教育のあり方に対する提言の一つに過ぎず、他にもさまざまな提言がなされています。ですから、教師を目指す皆さんには、本書が示した我が国の道徳教育の特徴と課題、提言が本当にその通りなのかどうか学校現場で実際に確認した上で、再度自分なりに子どもたちが未来に希望を持てる道徳教育のあり方について考えてみて欲しいと思います。
 一般にテキストに対しては、完成されたもの、従うべき標準というイメージを持っている人が多いかもしれませんが、本書は皆さんとともによりよい道徳教育のあり方について考えるためのたたき台として執筆しました。もちろん、現時点で考えられる最善を尽くして執筆していますが、不足な点もあると思います。本書の内容に関して気づいた点等があれば、筆者にお知らせいただければと思います。


編著者プロフィール

吉田 誠(よしだ まこと)
 1965年大阪府生まれ。筑波大学大学院博士課程教育学研究科(教育基礎学専攻)単位取得退学。筑波大学、筑波技術大学、関東学園大学、白鷗大学の非常勤講師を経て2006年10月に尚絅大学文化言語学部専任講師となり、2010年10月に同大学准教授に昇任。2012年4月より山形大学地域教育文化学部に准教授として着任予定。
主な研究業績として、
吉田誠、「トーマス・リコーナの人格教育と我が国の道徳教育との比較 ―道徳教育における「教える」ことと「学ぶ」こととの統合に向けて―」、道徳と教育 No.326、日本道徳教育学会、2008年、188−198頁
吉田誠・村田裕紀、「リコーナの人格教育に基づく道徳的習慣形成の方法の実践と検証 ―道徳の時間と学級会活動の連携による親切と感謝の習慣化―」、道徳と教育 No.329、日本道徳教育学会、2011年、153−157頁
などがある。

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